大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山家庭裁判所児島出張所 平成3年(家)35号 審判

申立人 中川一郎

相手方 下田宜子

主文

事件本人らの親権者を相手方から申立人に変更する。

理由

1  一件記録によれば、次の事実が認められる。

(1) 申立人(昭和27年6月23日生)と相手方(昭和27年9月28日生)は、昭和48年5月28日婚姻の届出をして夫婦となり、昭和49年8月3日長男の事件本人洋治が、昭和51年10月27日二男の事件本人登志彦が生まれたが、昭和56年7月29日協議離婚し、その際、事件本人らの親権者を相手方と定め、以後事件本人らは相手方において養育していた。

(2) ところが、相手方は、平成元年8月3日、原動機付自転車を運転中、普通乗用自動車と衝突する交通事故に遭い、脳挫傷等の傷害を受けて植物人間の状態となり、平成2年3月25日禁治産宣告審判が確定し、その後見人には実兄である田村弘次が選任された。なお、事件本人洋治については、高校の入学手続をする必要性などから、田村弘次の申立てにより平成2年2月21日同人が事件本人洋治の財産管理権のみを有する後見人に選任されている。

(3) 田村弘次は、相手方の後見人に選任されてから、相手方の住居であった市営住宅に移り住み、事件本人らと同居して同人らの監護養育をするようになったが、その養育態度に問題があり、事件本人登志彦を厳しく叱責するなどしたことから、事件本人登志彦が家出をするという事態を生じたりした。

(4) そのため、田村弘次と申立人及び申立人の母中川久仁子との間で話合いがなされ、その結果、申立人において事件本人らを引き取って監護養育することとなり、そこで、申立人は、親権者を相手から申立人に変更するため、本件申立てをなすに至ったものである。

(5) 申立人は、平成3年4月4日から事件本人らと同居し、同人らを監護養育しているが、申立人の住居の近くには申立人の母中川久仁子が居住しており、その援助を受けられるほか、申立人においても、その養育に当たっては愛情をもって精一杯の努力を尽くしており、事件本人らにおいても申立人に親和し、落ち着いた生活を送っている。

2  以上認定の事実によれば、事件本人らの福祉のため、事件本人の親権者を相手方から申立人に変更するのが相当である。

なお、民法838条1号に定める「未成年者に対し、親権を行う者がないとき」には、親権者の心身に著しい傷害があるため事実上親権を行うことができない状況にある場合もこれに当たり、したがって、後見が開始するものというべきであるが、このような場合であっても、未成年者の福祉のために、なお生存している実親を親権者にするのを相当とする特段の事情が存する場合には、その実親への親権者の変更をすることが認められると解すべきである。しかして、上記認定の事実によれば、親権者の変更を相当とする特段の事情が認められるというべきである。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 田近年則)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例